オレは丸山陸橋のそばのゴミ捨て場に打ち捨てられた。
飛距離3.7m。
あー面倒くせー
昨晩、正確には数時間前にその興奮を治めたばかりだ。
まだ少し尾を引く熱っぽい余韻に浸っていた。
2時間?3時間?そんな睡眠で簡単に「あした」にゃ切り替わらんよ。
企画者、2万電圧のフレンドリーな(これ大事!)全面サポートでFREAKS&CHEERIOのイベントでの出店を感慨をもって勤め逐えた明日だったんだ。
いつもより早く起床したもんね。
だって、昨夜の2万電圧で食べてくれた連中が来店するかもしれないだろ?
大量に仕込むぜ!
新青梅街道を環七手前で左に折れ住宅地を抜ける。
通い慣れた道。
十字路を抜けんとした。
「あ、黒い・・」
買って間もないであろう事はこの曇天下でもわかる。
光沢のある黒いワンボックスのヘッドライトと目が合った。
次の瞬間、青。
工事現場のブルーシートがいびつな角度で見えた。
こんなに高く飛んだのはランカウイ島以来かな。
ゴミ捨て場に降下。
勢い後頭部を花壇の角に打ちすえる。
次の瞬間、星。
こんなに奇麗な星を見たのはランカウイ島以来かな。
スモッグだらけの東京でオレにしか見えない閃光が走った。
「あー面倒くせー
なんでこうなるのかなっ!」
痛み、恐怖、怒り、驚き。
そんなものより、
「あー面倒くせー」
これが事故直後の正直な感想。
張り切ってた気持ちを挫かれた。
起き上がる~状況確認~相手とのやりとり~警察の聴取~病院。
このプロセスが頭の中に押し寄せ、本日の営業終了!を告げた。
起き上がれなかった。
もちろんアタマを打ってるから、あまり動いてはいけない事はわかってたよ。
それ以上に精神的に
「あー面倒くせー」があってね。
お前ら後の処理は全部やれや!
オレはここで寝る!
ふて腐れの感情が次に来た。
運転手が降りて来たみたいだ。
「大丈夫ぅぅぅぅ?汗・汗・汗」
女性。
「ごめんねぇ~汗。かわいそうにぃ」
それも年配の女性らしいな。
「シルバードライバーの事故が増えてます。」
よく聞く。
聞き流してた。
オレがその渦中に。
「意識ある???」
女性がオレを揺らす。
「あんまり動かさない方がいいよ、アタマを打っているみたいだ」
と野次馬
「あぁぁぁあーーーーー血がでてるぅぅぅーーーー」
「まじ?」
あー面倒くせー
当て逃げは無いようだ。
今日の営業を諦めたら眠くなってきた。
わりーけど、全部の後始末を頼むよ。
オレの荷物をこぼさず掻き集めておいてくれよ。
自転車の無事も確保な。
オレはいつも以上に香草を抱えていた。
その香草たちがアスファルトに引き延ばされ、
血なまぐさい事故現場に爽やかな香りを持ち込んでいたかもな。
「この人がいきなり飛び出してくるんだもぉーん」
(車側に一旦停止のサインあり)
ぶちまけたおいなりさんをみて
「このひと、食べながら自転車に乗っていたみたい」
(それは仕事中の間食。ひとつも封を切っていない)
女性、事故状況を捏造し出す。
あー面倒くせー、
言い返すのも
あー面倒くせー
あったかいフトンで寝かせろ!
オレは歩かないからな!
運べ!
あー面倒くせー
「わかってんだよ!もういい大人なんだからさっ!こんな細い道で飛ばすなんて!わかってんだよ!あんたは止まっていない。ほおぉんとにさ!わかってんだよ!もういい大人だろ!あんたも自転車の人も両方悪い!わかってんだよ!止まってなんかいないよ!!!」
女性に食って掛かるヒステリーを起こした男性の声。
月曜日の朝8時にヒステリーを起こせるゆとり生活の
お前はだーれ?笑
現場にわけのわからん修羅場が訪れていた。
あー面倒くせー
それでもオレは起きない。
救急車が覇気をなくしたオレのボデーを回収。
リサイクルしに病院へ。
その日は資源ゴミ回収日であった。
ーつづくー