数千人、いや、千じゃきかないぞ。万だろ。
オープンエアの会場。蒼穹のスタジアム。
イベントの進行につれ、オーディエンスはその爆発的な熱量を増してゆく。
オレはやっぱりバックステージで乗り遅れている。
1.2.3・・・間が持たないオレは闇雲にドラムスティックの素振りをした。
忘れていたこの緊張が心地よい。
来いよ!このヤロー!
真冬の凛とする空気がオレという主体のコントラストを高めた。
「Vesperaさん、お願いします!」
ステージへの誘導が始まった。
これまで幾度と通った花道。
ソレは非日常への獣道。
イベントプロモーターは何やら無線を飛ばしている。
言葉だったものは右の耳から左の耳へ通り抜ける。
もはや言語感覚も日常から乖離してしまったのか。
待ちわびたオーディエンスは暴動寸前。
しかし!
次に視界に飛び込んできた存在の意味を繋げられなかった。
ステージ上、ドラムセットがあるはずの場所には鍋やらポッドやら・・・
ご丁寧に、お玉やザルまで。
見慣れた存在たちが見慣れた場所に鎮座しているのだ。
ただその両者の関係性に連続性を見られぬまま。
異和を持って鎮座しているのだ。
よく見ろ、あれは雑然と放置されているわけじゃない。
鍋やらポッドやらザルやらでオレのドラムセットは組まれていたのだ!
おい!!
軽量カップがカウベルの様に配されていたのを見て、ミュージックテクニシャンの本気を知る。
ダメだ。
観客がまるで無機質な陶器のように映る。
ここは何処だよ?
オレだけが不思議がっている事に気がついた。
メンバーに叫んだ、
「おい!お前ら!ドラムセットこれだぞ!?こんなんでライブがやれるのか!」
Vesperaのメンバーはひとり取り乱してるオレに一瞥をくれるのみ。
HEATが聞いたこともない曲を弾きだした。
は?なにそれ!?
観客、爆ノリ!
え!?おい!待てよ!
オレ、菜ばしを滅法振り乱す・・・
悲しいかな菜ばしの連結ひもはストロークを限ってきやがる。
オレ、菜ばしを滅法振り乱す・・・
泣きながら。
中華なべを、
泣きながら。
ポッドを、
泣きながら。
叩く。
阿呆のように。
じりじりじりじり。
ガバッ!
「なんだ夢かぁ・・・」
デビューライブ当日はこんな目覚めでした。
PUNK ADDICT!に参加したみなさん。
おつかれさまでした。
今後もよろしく!